本番中に共演者のひとりが大怪我をしたことがあった。
その公演も、いつも通り台本通りに進行していた。
しかし裏楽屋で制作のスタッフの顔色で、何かが起こっていたのはすぐにわかった。
若い彼はおそらく初舞台だったはずだ。
無念の涙と絶対的な舞台の時間が同時に無情に流れていく。
舞台にいきます。演りたい、演らせてください。
右足がパンパンに腫れながらも、彼はあきらめようとはしなかった。
その日の本番が終わった夜に一人で呑んでいた。
彼の壮絶な表情と光景が強烈に焼き付いていたのか、思いをめぐらす渦が生まれトグロを巻き始める。
まともに歩けることすらできなかった筈なのに、あいつは舞台に行きたがっていた。
悔しさ・辛さ・戻りたい思い。すべてが純粋だった。
忘れかけていたわけではないが、彼を思い返してたら熱いモノが込み上げてきた。
古臭くなるが、根性や気合い。
舞台に立ちたいという覚悟はこれらが全てなんだな、やっぱり。
不幸な出来事だったが、大切なことを教えてくれた。
その後、彼は公演中になんとか復帰できることができて、舞台でいい笑顔してた。